映画版

はじめに

どんな作品でも、いろんな評価をする人がいます。

面白かった、感動したという人もいれば、つまらない、駄作だという人もいます。
提灯記事を書かされる人もいれば、批判することでしかアイデンティティを維持できない人もいます。
しかし、これだけ人口に膾炙した作品ともなれば、個々の意見の集合が全体の評価に近いものになっている、と信ずるのが妥当だと思います。

で、映画版セカチューは、大ヒットした割には辛口の評価が多いんですよね。
今さらながら白状しますと、私は映画館まで足を運びませんでした。行かなかった理由は、辛口の評価をつけた大半の人達と同じ理由です。

「『セカチュー』って、あのミリオンセラーの映画でしょ?」

商業ベースで売れたものだから、つまらない。そう断ずる根拠もなければ論理もないのに、当時の私はそんなことを考えていました。
しかし、原作を読み、漫画版を読み、ドラマに涙した後でDVDでリリースされた映画版を観て、私は考えを改めることにしました。


どんな作品でも、「つまらない」と評価するのは簡単なことです。
でも、どうせ観るなら「面白い」と評価したくなるように観た方がいいと思いませんか?

私も、セカチューの映画が満点の出来だなんて思っていません。
それでもやっぱり、好きです。おススメです。

そんな私の視点から、この映画をどうやって楽しんで観るかを記しておきたい、と思います。

映画のテーマ - やはり「純愛」?

文庫本の解説で、行定勲監督は「死者の想いを心に留めながら生きてゆく主人公の未来」を描きたかった、と述べています。
しかし、このテーマを文字通りに受け止めると、土俵上で一回転してしまう程の肩すかしを喰らいます。
なぜならば、映画では主人公の未来なんてほとんど描かれていませんから。

だから、行定監督が主張した映画のテーマを、好意的に解釈しながら見直してみましょう。
つまり、こんな感じで。

死者の想いが主人公の心にどれだけ大きく留められているか?
想いを抱いて未来を生きてゆくことがどれだけ大変なのか?

これは果たして「純愛」と呼べるのでしょうか。
断言することはできませんが、「これが『純愛』なのだろうな」と思いながら観る程度の力の抜き方がいいのではないかと思います。

アキとの思い出 - 誰が主役なのか?

この映画の名場面は、ほとんど全てがサクとアキとの思い出に集約されている感があります。
「そんなの当たり前だろう!」と思った人は、行定監督が原作を読んでもっとも胸をうたれたのが第五章だ、と言ったのを知らない人です。第五章といえば、アキが死んでから何年も経った世界のハズなのに。
監督自ら、原作を読んだ感想に反しながら恋愛映画を作ろうとした、としか思えません。

思い出の前半は、原作にもない場面を取り入れながら、甘酸っぱい思い出が綴られていきます。
バイクに二人乗りで向かった防波堤の上で、二人語り合うこと。
ブランコに乗って永遠の愛について考え、校長先生の骨に向かって「愛も死んじゃうんですか?」と問いかけること。
カセットテープで始めた「音の交換日記」とサクの告白。
夢島の海での楽しい時間。そして二人だけの一夜。

まさに、アキとの甘酸っぱい思い出を作り上げるために入れられたとしか思えないようなエピソードの数々。恋愛映画のエッセンスがいっぱい詰まっています。
つまり、DVDを観る時はこれらのシーンを楽しんでください、ということになります。


思い出の後半、つまりアキが病に倒れてからは、視点がガラリと変化します。つまり、二人の思い出を作ることから、サクの純愛へと変わっていくんですよね。
ヒロイン病気モノは同情誘うから、なんてナナメ目線は、映画を楽しもうという観点からはマイナスの効果しかありません。切ない話は切ないものとして観た方がいいと思います。

倒れたアキを乗せて走る車を素足で追いかけるサク。アキ...アキ...。
夜中におどけて登場するロミオ。オーストラリアに行こうという約束。
叶うことのない婚姻届を持って「結婚して...」というプロポーズ。無菌室ごしのファーストキス。

この映画の主演は、大人になったサクを演じた大沢たかお。でも、映画を観た後で大沢たかおが主演だと思った人はそんなに多くないハズです。
真の主役は、アキへの純愛を求め続けたサク、つまり森山未來であると思った人の方が多いんじゃないでしょうか?
もちろん、それで構いません。森山未來が懸命に演じ続けたサクに感情移入しながら、続きを観てください。

助けてください - 不朽の名場面

いいですよね。

完全に予測できる情報の情報量はゼロです。
何度も観て完全に予測できるようになった情報のハズなのに、何度観ても泣いてしまう。それは、映画が情報を得るために観るものではなくて、心を動かすために観るものやということなんでしょうね。

このシーンの中で、二人が手を離す場面があります。
かろうじて二人をつなぎ止めていた細い運命の糸が切れてしまう。そんな暗示を感じさせます。
このカットがあまりにも印象的で、忘れることができません。

この後、あの「助けてください」に続くんですが、多くを語るのはやめておきます。
私がこれまでに観たすべての映画(決して多くないけれど)の中で、一番好きなシーンです。

ナナメ上目線からボロクソに書かれた映画評を目にするのは、正直言って辛いです。いちいち反論する気力も出ません。
それでも、このシーンがある限り、自信を持ってこの映画を「好き」だと言い続けられる、それだけの魅力があります。
たとえ、批判の矢が全身に突き刺さったとしても。

まとめ - サクの未来

こんなドラマティックなエピソードの後で描かれるサクの未来がどうなるのか、いま一つ具体的にイメージが湧かないのがこの映画の欠点の一つです。
まあ、律子と一緒に生きていくんだろうとは思いますが、ウルルに灰をまいたアキへの思いはどうなってしまうのでしょうか?
『瞳をとじて』のように、何も感じなくなってしまうのでしょうか? それとも、今も胸に抱いて生きるのでしょうか?

映画では、この答を敢えて用意しなかったと解釈しています。
ラストシーンを観た後で、余韻に浸りながらそれぞれの答を探す。映画にはそんな楽しみがあってもいいですよね。


世界の中心で、愛をさけぶ スタンダード・エディション
by 行定勲 / 大沢たかお, 柴咲コウ, 長澤まさみ, 森山未來, 山崎努
東宝 (2004-12-23)
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