満月の夜、モビイ・ディックが

あらすじ

主人公は、とにかく好きな女の子を手に入れること、そして少しでも早く女の子と結婚することが、人生最大のテーマ。
ふとしたことで主人公の前に現れた友人は、世捨て人的な変わり者。女性にはまったく興味を示さない。そして、ふとしたことで突然、主人公の目の前からいなくなってしまう。
主人公が愛する彼女は、どことなくミステリアスな雰囲気が漂う。主人公は彼女の心の動きをとらえることができない。彼女が心の闇を抱えていることに主人公が気づいたのは、彼女が入院してからのことであった。

そんな三人はある日の夜、友人の運転する車に乗って、逃避行ともつかぬ旅に出る...。


『きみの知らないところで世界は動く』との共通点が際立つように紹介してみましたが、本当にそっくりに見えますね。

自分探し?

この小説の登場人物には共通する点が見られます。
まず、三人の主要登場人物すべてに家庭の、特に親の環境が背景として語られていること。そして、その家庭環境に起因する問題によって、現実社会の居場所を失っている人物がいること。
『きみの知らないところで世界は動く』だけでなく『ジョン・レノンを信じるな』にも似ているように思います。


敢えて『ジョン・レノンを信じるな』と対比させるとすれば、『満月の夜、モビイ・ディックが』の方は自分自身と向き合うことがより強く主張されている、というところでしょうか。

彼女(香澄)が入院した日、友人(タケル)は主人公に向かって、謎の言葉を放ちます。

「満月の夜に注意しろ」
 ぼくは振り向いた。彼は窓の外に広がる海を見つめたまま、
「モビイ・ディックはきっとやって来る。わかるな?」

主人公ですら意味がわからなかったという言葉を、読者が理解するのは相当骨が折れると思います。事実、私自身もよくわかっていません。
機会はいつか必ずやってくる、その時を見逃さずにいろ。そんな意味なのでしょうか。

薄明るい未来へ

この小説の最後は、彼女が主人公に宛てた手紙で終わっています。
この手紙のおかげで、他の片山作品とくらべて主人公(と彼女)の未来が非常にイメージしやすいものになっています。ただし、その未来も「薄明るい」という表現がしっくりとくるようなものですが。

この手紙のくだりは無くてもいいんじゃないか、という書評をAmazonで見かけました。
確かにそうかもしれません。これから二人はどうなるのか、説明させずに読者の想像に任せてもよかったのかもしれません。

そして、そんな感想を抱く人にこそ、すべてが読者の想像に委ねられる『世界の中心で、愛をさけぶ』をお勧めする、という寸法です。


満月の夜、モビイ・ディックが
by 片山 恭一
小学館

文庫
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